美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
誇り、逆転、力強さ自分の力を信じたいとき、夫の陰に隠れたくないとき
おのれに存する偉大なるものの小を感ずることのできない人は、他人に存する小なるものの偉大を見のがしがちである。
岡倉天心茶の本」(1906)
ハッとする他人を見下してしまいそうなとき
柳吉は泣いた。 蝶子も泣いた。 しかしそれは別れの涙ではなく、 まだ一緒にいるという涙であった。
織田作之助夫婦善哉」(1940)
大変なのに一緒にいることを選ぶとき
あの鼻では誰も妻になる女があるまいと思ったからである。
芥川龍之介」(1916)
悲しみ, 切なさ自分の外見で人生が決められてしまうと感じたとき
私は私のできる限りこの不可思議な私というものを、あなたに解らせるように、今までの叙述で己れを尽したつもりです。
夏目漱石こころ」(1914)
切なさ, 決意自分の行動の意味を理解してほしいとき
最も公明正大な、且つ、最も遠まわしな科学的の方法によって、一分一厘の隙間(すきま)もなく私の心理を取り囲んで、私自身の手で直接に、私自身を彼女の恋人として指ささせようとしている。
夢野久作ドグラ・マグラ」(1935)
恐怖自分が巧妙に操られていることに気づいたとき
自分が、如何に生く可きかを學んでゐたと思つてゐる間に、自分は、如何に死す可きかを學んでゐたのである。
レオナルド・ダ・ヴインチレオナルド・ダ・ヴインチの手記」(1914)
生と死の逆転生きる意味を考えたいとき
己はお前を何処(どこ)までも追っ駈(か)け廻す積りだから
谷崎潤一郎痴人の愛」(1924)
執着、支配欲愛する者を逃がせない切実さを感じたとき
自由とわがままとの界(さかい)は、他人の妨げをなすとなさざるとの間にあり。
福沢諭吉学問のすすめ」(1872)
気づき自分の行動が本当に自由なのか問い直したいとき
生れ出づる悩みを持つ者は、 その悩みの故に高い。
有島武郎生れ出づる悩み」(1918)
希望自分の苦しみに意味を見出したいとき
あの偉大な破壊の下では、運命はあったが、堕落はなかった。無心であったが、充満していた。
坂口安吾堕落論」(1947)
喜び, 希望, 清潔感今の世の中に失望し、本質的な生き方を求めたいとき
名人紀昌は終に弓を手にしなくなった。
中島敦名人伝」(1942)
超越、静寂何かを極めた先にあるものを知りたいとき
茶道の要義は「不完全なもの」を崇拝するにある。いわゆる人生というこの不可解なもののうちに、何か可能なものを成就しようとするやさしい企てであるから。
岡倉天心茶の本」(1906)
静かな感動完璧を目指して疲れたとき
太郎兵衛は笑いながら死んだ。
森鷗外最後の一句」(1915)
衝撃、悲しみ死に直面しても揺るがない人間の強さに触れたとき
折角ここへまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の地獄へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。
芥川龍之介蜘蛛の糸」(1918)
絶望せっかく掴んだ希望が一瞬にして失われるかもしれないと悟るとき
檸檬の冷たさは たとえようもなくよかった。
梶井基次郎檸檬」(1925)
安堵ふとした瞬間に救われたとき
自分はかつて此の境に佇立して、 落日の光の穏やかに林を照すのを見て、 かの詩人の詩にはじめて思い当ることがあった。
国木田独歩武蔵野」(1898)
気づき本の中の言葉が現実と重なった瞬間
冬が来ていた。あの鋭い冬が――
堀辰雄風立ちぬ」(1938)
喪失避けられない別れを予感したとき
感動と愛情とをこめて家族のことを考えた。自分が消えてしまわなければならないのだという彼の考えは、おそらく妹の意見よりももっと決定的なものだった。
フランツ・カフカ変身」(0)
悲しみ、切なさ、諦念自分の死が家族を救う唯一の方法だと気づいたとき
金魚のふんみたいに ついて歩くなんて
太宰治斜陽」(1947)
切なさ自分の弱さに気づいたとき