明治三十五年、結核で長期療養中の正岡子規が、病床という狭い世界から綴った随想録である。「病床六尺、これが我世界である」という冒頭の一文が象徴するように、六年間寝たきりの状態で、時には激痛に苦しみながらも、鋭い観察眼と文章力で日々の思索を記録した。
子規は病床にありながら、新聞で読んだ土佐の小さな水産学校の話に感動し、銃猟談への興味、東西の文化比較、西洋と日本の風景画の違い、俳句や絵画への美学的考察など、実に幅広いテーマを扱う。特に五月八日の日記では、一日の出来事を詳細に記録し、友人たちとの交流、絵画鑑賞、家族の飼うカナリアの心配まで、病人とは思えないほど豊かな精神生活を描写している。
痛みと闘いながらも知識欲を失わず、美への探求心を持ち続ける子規の姿は、人間の精神力の強さを物語る。文学者らしい繊細な感受性と、死を前にした人間の率直な心境が織りなす文章は、読む者の心を深く打つ名随筆として評価されている。