中年の文学者竹中時雄は、妻子ある身でありながら、美しい女弟子・横山芳子への抑えきれない恋情に苦悶している。芳子は備中の新見町出身で、神戸の女学院に学ぶ十九歳の女性。時雄の文学作品に心酔し、手紙を通じて師弟関係を結んだ後、上京して時雄の家に寄宿することになった。
時雄は三十六歳で、結婚生活に倦み、日常の単調さに絶望していた。そこに現れた若く美しい芳子は、彼の孤独を慰め、文学への情熱を理解してくれる存在となる。二人は次第に師弟の枠を越えた感情で結ばれていくが、時雄の妻や社会的立場がその恋路を阻む。
やがて芳子は他の男性と結婚することになり、時雄のもとを去っていく。失意の時雄は、芳子が使っていた蒲団に顔を埋めて彼女の匂いを嗅ぎ、過ぎ去った恋への想いに耽溺する。この場面で物語は終わり、中年男性の屈折した心理と叶わぬ恋の哀切さが生々しく描かれている。自然主義文学の代表作として、人間の赤裸々な感情を容赦なく暴いた衝撃的な作品である。