名前もない一匹の子猫が語る奇妙な物語。主人公の猫は、書生に捨てられた後、ある中学教師の家に住み着く。胃弱で昼寝ばかりしている主人、気難しい家族、そして近所の猫たちとの交流を通じて、人間社会の滑稽さと矛盾を鋭い観察眼で描き出していく。
教師である主人は、俳句、絵画、音楽と様々な趣味に手を出すが、どれも中途半端で物にならない。便所で謡を歌い「便所先生」と呼ばれても平気な様子や、猫を写生しようとして奇怪な絵を描く姿は滑稽そのものである。一方、猫は人間の身勝手さに憤りを感じながらも、飄々とした態度で日々を過ごしている。
近所の白猫や三毛猫との会話では、人間への不満や哲学的な議論が交わされ、猫の世界にも人間社会の縮図が見える。主人の友人である美学者、実業家の金田、若い哲学者の寒月らが織りなす人間模様も、猫の視点から痛烈に諷刺される。
物語は猫の死で幕を閉じるが、最後まで人間への皮肉と愛情を込めた観察は続く。漱石初期の代表作として、明治時代の知識人社会を猫という異質な視点から描いた、ユーモアと風刺に満ちた傑作である。