もどる
美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
江戸川乱歩「人間椅子」
背景解説
昭和初期、妻は夫に従うのが当たり前だった時代。なのにこの女性作家は、外務省の偉い人である旦那さんよりも、著作の才能で有名になっちゃったんですよ。要するに、社会的には夫より下とされるはずの妻が、実力で夫の存在を吹き飛ばしちゃった、ってわけです。
でも、そんな成功を手にした彼女を待っていたのは、世間の期待と家族からのプレッシャーという、想像以上に重い現実だった——
あらすじを見てみる →
本文を読む →
『人間椅子』の他のひとふみ
私は、そうして、一つ一つ椅子を仕上げる度毎に、いい知れぬ味気なさに襲われるのでございます。
江戸川乱歩
こんな、うじ虫の様な生活を、続けて行く位なら、いっそのこと、死んで了った方が増しだ
江戸川乱歩
私という男は、何という気違いでありましょう。それ程の苦しみを忍んでも、不思議な感触の世界を見捨てる気になれなかったのでございます。
江戸川乱歩
ただ一つ、私の作った椅子丈けが、今の夢の名残(なご)りの様に、そこに、ポツネンと残って居ります。でも、その椅子は、やがて、いずことも知れぬ、私達のとは全く別な世界へ、運び去られて了うのではありませんか。
江戸川乱歩
それは、夢の様に荒唐無稽(こうとうむけい)で、非常に不気味な事柄でした。でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。
江戸川乱歩
← ホームに戻る