良平は毎日それを見る度に、 トロッコへ乗りたくてたまらなかった。
芥川龍之介トロッコ」(1922)
好奇心何かにどうしようもなく惹かれるとき
私はこの時始めて、 云いようのない疲労と倦怠とを そうして又不可解な、下等な、 退屈な人生を僅かに忘れる事が出来たのである。
芥川龍之介蜜柑」(1919)
希望小さなことで救われたとき
こんな時には私はいつもあの美しいシャボン玉をこわさぬようにと思いました。そう思うから叱られても腹も立ちませんでした。
小泉節子思い出の記」(1908)
切なさ配偶者の完璧さへの執着に直面し、寄り添うことの意味を感じたとき
札は十円札らしい。女は長い睫(まつげ)を伏せて薄い唇(くちびる)を結んで一生懸命に、札の数を読んでいるが、その読み方がいかにも早い。しかも札の数はどこまで行っても尽きる様子がない。膝(ひざ)の上に乗っているのはたかだか百枚ぐらいだが、その百枚がいつまで勘定しても百枚である。
夏目漱石夢十夜」(1908)
不安、違和感、虚無感現実と非現実の狭間で戸惑ったとき
海は君を呼んでいた。 そしてカンヴァスもまた 君を呼んでいた。
有島武郎生れ出づる悩み」(1918)
葛藤二つのやりたいことの間で迷うとき
喜びにも悲しみにも、花はわれらの不断の友である。花とともに飲み、共に食らい、共に歌い、共に踊り、共に戯れる。
岡倉天心茶の本」(1906)
あたたかさ自然の美しさに心を動かされたとき
平常から、犯罪だ探偵だと、議論丈は却々一人前にやってのける私だが、さて実際に打っつかったのは初めてだ。手のつけ様がない。
江戸川乱歩D坂の殺人事件」(1925)
無力感、現実への直面理想と現実のギャップに気づいたとき
『ああ、実に! なんという汚らわしい事だろう! いったい、いったいおれが……いや、これは無意味(ノンセンス)だ、これは愚にもつかぬことだ!』
ドストエフスキー罪と罰」(0)
自己嫌悪と葛藤老婆の家から出た直後、自分の犯行計画に気づいて苦しむとき
我脳裡に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり
森鷗外舞姫」(1890)
複雑な悔恨、葛藤かつての過ちを後悔しても、完全には癒えない心の傷を抱えているとき
どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。
宮沢賢治山越え」(1921)
不安, 孤立感迷ってしまい、先が見えないとき
私は、そうして、一つ一つ椅子を仕上げる度毎に、いい知れぬ味気なさに襲われるのでございます。
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
虚無感、絶望自分の人生に意味を見出せなくなったとき
南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
宮沢賢治雨ニモマケズ」(0)
勇気, 優しさ, 覚悟誰かを助けたいとき, 恐怖に直面したとき
子狐の手は、牡丹(ぼたん)の花のようにまっかでした。雪をすくったので、ぼたんの花のようにまっかになったのです。
新美南吉手袋を買いに」(1943)
可愛さ、温かさ小さな子供の無邪気さに心が温まるとき
私はこんな風(ふう)にして生きて来たのです。始めてあなたに鎌倉(かまくら)で会った時も、あなたといっしょに郊外を散歩した時も、私の気分に大した変りはなかったのです。私の後ろにはいつでも黒い影が括(く)ッ付(つ)いていました。
夏目漱石こころ」(1914)
孤独, 絶望自分の人生が変わらない苦しみを感じたとき、誰かとの関係が表面的に見えるとき
「めおとで食べたら 御利益がありまっせ」 と言われて、二人は善哉を頼んだ。 甘い善哉が、 二人の口に沁みた。
織田作之助夫婦善哉」(1940)
幸福小さな幸せを噛みしめるとき
それでは」と、グレゴールはいったが、自分が冷静さを保っているただ一人の人間なのだということをはっきりと意識していた。
フランツ・カフカ変身」(0)
決意, 孤独周囲が混乱する中で、自分だけが状況を理解しているとき
喜助は弟に頼まれた通り、剃刀を抜いた。抜くと血がどっと出て弟は死んだ。
森鷗外高瀬舟」(1916)
衝撃、悲しみ正しいことをしたはずなのに罪に問われるとき
疑い、理解し、肯定し、否定し、欲し、欲せぬ、なおまた想像し、感覚するものである。
デカルト省察」(1641)
思考の豊かさ人間の心の複雑さに向き合いたいとき
あなたばかりではありません。わたしの背中にも、悲しみはいっぱいです。
新美南吉でんでんむしのかなしみ」(1935)
驚き、連帯自分だけが苦しんでいると思っていたのに、同じ痛みを持つ人に出会ったとき
人間は可憐であり脆弱であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。
坂口安吾堕落論」(1947)
希望絶望的な状況の中でも、人間の本質を信じたいとき