十の奇怪な夢を描いた幻想的な連作小説。第一夜では、死を予告した美しい女が「百年待っていてください」と言い残して息を絶え、男は墓の傍で無数の日の出と日没を数えながら待ち続ける。やがて墓から白百合が咲き、百年の時が過ぎていたことに気づく。第二夜は、和尚に「悟れなければ侍ではない」と侮辱された武士が、一刻のうちに悟りを開かなければ自害すると決意し座禅を組むが、苦悶の末に時の鐘が鳴り響く。第三夜では、盲目の我が子を背負った男が森へ向かう途中、子供から「百年前にここでお前が私を殺した」と告げられ、人殺しの記憶が蘇ると同時に背の子が石のように重くなる。各夢は現実と幻想の境界を曖昧にし、時間や因果の感覚を歪めながら、人間の深層心理に潜む恐怖や罪悪感、愛憎を鮮烈に描き出す。夢という設定を巧みに利用し、論理を超越した象徴的な世界で読者の無意識に直接訴えかける、漱石の実験的傑作である。