その檸檬の色彩は ガチャガチャした色の階調を ひっそりと紡錘形の中へ 吸収してしまって
梶井基次郎檸檬」(1925)
感嘆美しいものに心を奪われたとき
ピストルはおもちゃだったのです。さいぜんから、おもちゃのピストルにおびえて、人を呼ぶこともできなかったのです。
江戸川乱歩怪人二十面相」(1936)
怒り自分がまたも騙されていたことに気づいたとき
それは、夢の様に荒唐無稽(こうとうむけい)で、非常に不気味な事柄でした。でも、その不気味さが、いいしれぬ魅力となって、私をそそのかすのでございます。
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
誘惑、危険への惹かれ禁断の計画に心が揺らいでいるとき
僕の可愛いナオミちゃん、僕はお前を愛しているばかりじゃない、ほんとうを云えばお前を崇拝しているのだよ。お前は僕の宝物だ、僕が自分で見つけ出して研きをかけたダイヤモンドだ。
谷崎潤一郎痴人の愛」(1924)
執着、支配欲、歪んだ愛情結婚を決めた直後に、ナオミに対して自らの感情を告白するとき
誰だって身体がおかしくなっていた。イザとなったら「仕方がない」やるさ。「殺されること」はどっち道同じことだ。そんな気が皆にあった。――ただ、もうたまらなかった。
小林多喜二蟹工船」(1929)
絶望, 諦念, 怒り限界まで搾取された労働者たちの心情を知りたいとき
彼女が毎日腰かけていた、あの肘掛椅子の中には、見も知らぬ一人の男が、入っていたのであるか。
江戸川乱歩人間椅子」(1925)
恐怖日常の安全だと思っていた場所が実は侵されていたことに気づいたとき
ぼくは二千四百円の損害だ
宮沢賢治注文の多い料理店」(1924)
滑稽命の危険より金を気にしちゃうとき
妹はそのとき、もう手紙の主が誰であるか知っていたのです。
太宰治葉桜と魔笛」(1939)
衝撃、切なさ相手に嘘がバレていたと知ったとき
こんな時には私はいつもあの美しいシャボン玉をこわさぬようにと思いました。そう思うから叱られても腹も立ちませんでした。
小泉節子思い出の記」(1908)
切なさ配偶者の完璧さへの執着に直面し、寄り添うことの意味を感じたとき
……自分で自分を忘れてしまっている……。
夢野久作ドグラ・マグラ」(1935)
恐怖, 孤独自らのアイデンティティを失い、パニックに陥ったとき
丈夫ナカラダヲモチ
宮沢賢治雨ニモマケズ」(0)
希望、シンプルさへの憧れ複雑な人生に疲れたとき
真理はあらゆる人によって承認さるべき要求を含んでいる。
三木清哲学入門」(1940)
厳粛正しさについて考えたいとき
身も独立し、家も独立し、天下国家も独立すべきなり。
福沢諭吉学問のすすめ」(1872)
決意自分の人生を切り開きたい、社会に貢献したいと思ったとき
巧みな言葉、媚びるような表情、そうした技巧には、仁の影がうすい。
下村湖人現代訳論語」(1949)
戒め人の本心が見えなくて不安なとき
……ここはたしかに九州帝国大学の中の精神病科の病室に違いない。そうして私は一個の精神病患者として、この七号室? に収容されている人間に相違ないのだ。
夢野久作ドグラ・マグラ」(1935)
現実の受容, 衝撃, 混乱自分の置かれた状況を冷徹に認識しようとするとき
猪子蓮太郎という人の名は、 丑松にとって 一つの光であった。
島崎藤村破戒」(1906)
希望自分と同じ境遇の人に出会ったとき
私は妻には何にも知らせたくないのです。妻が己れの過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存しておいてやりたいのが私の唯一の希望なのですから
夏目漱石こころ」(1914)
切なさ愛する者を傷つけたくないと思ったとき、また自分の秘密を抱えて孤独を感じるとき
何が人生において最もよきことぞと問い顧みるとき、官能を透してくる物質の快楽よりも、恋する女と、愛する友と相抱いて、胸をぴたりと融合して、至情と至情との熱烈なる共鳴を感ずるそのときである。
倉田百三愛と認識との出発」(1921)
愛の本質人生で本当に大切なものを見つめ直したいとき
科学の歴史はある意味では錯覚と失策の歴史である。偉大なる迂愚者の頭の悪い能率の悪い仕事の歴史である
寺田寅彦科学者とあたま」(1933)
勇気失敗を恐れて挑戦できないとき
「いき」の構造は「媚態」と「意気地」と「諦め」との三契機を示している。
九鬼周造「いき」の構造」(1930)
腑に落ちる日本的な美しさの正体を知りたいとき