孔子の言行録である「論語」について、下村湖人が現代人にも理解できるよう詳細な解説を施した思想書である。著者は冒頭で「東洋を知るには儒教を、儒教を知るには孔子を、孔子を知るには論語を知らなければならない」と述べ、論語の重要性を強調する。
本書は単なる翻訳にとどまらず、論語の成立過程、日本への伝来、そして明治以降の急激な退潮について歴史的考察を加えている。特に注目すべきは、論語が「精神の書」「道徳の書」であると同時に「政治の書」でもあるという指摘である。キリスト教や仏教と異なり、孔子の思想は現世的・政治的であり、理想的人物は同時に優れた為政者でもあるべきだとする。
著者は孔子を「聖者の中で最も常識的・現世的な人」と評し、神秘的体験ではなく日常生活の丹念な修養によって理想を追求した人物として描く。また春秋時代末期という動乱の時代背景を詳述し、周王朝の秩序が崩壊する中で孔子が古き良き制度の復活を願った歴史的文脈を解説している。現代の読者が論語を理解するための必読の入門書である。