立派な身なりの、五十年配の奥さんが、椿屋の勝手口にお酒を売りに来て、一升三百円、とはっきり言いまして。
太宰治ヴィヨンの妻」(1947)
何という美しい、何というおっとりした声なんでしょう。
新美南吉手袋を買いに」(1943)
ああ、そのときのお前の顔色の、そしてその唇の色までも、なんと蒼ざめていたことったら!
堀辰雄風立ちぬ」(1938)
この、お乳とお乳のあいだに、……涙の谷、……
太宰治魚服記」(1933)
母は私にも別れの言葉もいうひまもなかったのか、それきり私は会えなかった。
室生犀星幼年時代」(1919)
女というものはうるさがらずに人からだまされるために生まれたものなんですね。
紫式部(与謝野晶子訳)源氏物語(25 蛍)」(1914)
というのは、彼はいきなりゲラゲラと笑い出したのです。
江戸川乱歩D坂の殺人事件」(1925)
でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!
泉鏡花外科室」(1895)
人よりはすぐれた風采のこの公子も、源氏のそばで見ては桜に隣った深山の木というより言い方がない。
紫式部(与謝野晶子訳)源氏物語(07 紅葉賀)」(1914)
金が足りぬ。良いわ。金をこしらえい
ゲーテファウスト」(1808)
ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは。
新美南吉ごんぎつね」(1932)
こんな所に誰が居るものか、一度出たらば鉄砲玉で、再び帰ってこはしないぞ。
福沢諭吉福翁自伝」(1899)
もはや期年のうちに成就すべき大願を見果てずして死ぬことが、やや悲しまれた
菊池寛恩讐の彼方に」(1919)
私は自分が日記をつけていることを夫に感づかれるようなヘマはやらない。
谷崎潤一郎」(1956)
見よ、鳶は羽ばたきもせず中空から石のように落ちて来るではないか。
中島敦名人伝」(1942)
現実は我々に対してあるというよりも、その中に我々があるのである。
三木清哲学入門」(1940)