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こう云う風に、幾晩となく母が気を揉んで、夜の目も寝ずに心配していた父は、とくの昔に浪士のために殺されていたのである。
夏目漱石「夢十夜」
背景解説
毎晩毎晩、母親が八幡宮で必死に祈ってた父親の無事…実はその祈りが届く相手はもう何年も前に殺されてたってわけ。知らずに何年も何年も祈り続けてた母親の姿が、この瞬間に全く違う意味を持ってくるヤバさ。
では、その母親は真実をいつ知ることになるのか、そしてそれがどれほどの絶望なのか――漱石はその先を描くのか、描かないのか。
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『夢十夜』の他のひとふみ
百年待っていて下さい
夏目漱石
百年はもう来ていたんだな
夏目漱石
隣の広間の床に据(す)えてある置時計が次の刻(とき)を打つまでには、きっと悟って見せる。悟った上で、今夜また入室(にゅうしつ)する。そうして和尚の首と悟りと引替(ひきかえ)にしてやる。
夏目漱石
堪(た)えがたいほど切ないものを胸に盛(い)れて忍んでいた。
夏目漱石
おれは人殺(ひとごろし)であったんだなと始めて気がついた途端(とたん)に、背中の子が急に石地蔵のように重くなった。
夏目漱石
背中に小さい小僧がくっついていて、その小僧が自分の過去、現在、未来をことごとく照して、寸分の事実も洩(も)らさない鏡のように光っている。
夏目漱石
「臍(へそ)の奥だよ」
夏目漱石
けれども爺さんは、とうとう上がって来なかった。
夏目漱石
その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢いたいと云った。
夏目漱石
蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似をしたものは天探女である。この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。
夏目漱石
あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない
夏目漱石
ついに明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。
夏目漱石
どこへ行くんだか分らない。ただ波の底から焼火箸(やけひばし)のような太陽が出る。
夏目漱石
こんな船にいるよりいっそ身を投げて死んでしまおうかと思った。
夏目漱石
どこへ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、しかもその悟りを利用する事ができずに、無限の後悔と恐怖とを抱(いだ)いて黒い波の方へ静かに落ちて行った。
夏目漱石
札は十円札らしい。女は長い睫(まつげ)を伏せて薄い唇(くちびる)を結んで一生懸命に、札の数を読んでいるが、その読み方がいかにも早い。しかも札の数はどこまで行っても尽きる様子がない。膝(ひざ)の上に乗っているのはたかだか百枚ぐらいだが、その百枚がいつまで勘定しても百枚である。
夏目漱石
けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。
夏目漱石
母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって是非ない願をかけたら、よもや聴かれぬ道理はなかろうと一図に思いつめている。
夏目漱石
庄太郎は必死の勇をふるって、豚の鼻頭を七日(なのか)六晩(むばん)叩(たた)いた。けれども、とうとう精根が尽きて、手が蒟蒻(こんにゃく)のように弱って、しまいに豚に舐(な)められてしまった。
夏目漱石
けれども、かつて銭(ぜに)を出して水菓子を買った事がない。ただでは無論食わない。色ばかり賞(ほ)めている。
夏目漱石
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