画家志望の青年が俗世の煩わしさから逃れ、非人情の境地を求めて九州の山里へと旅に出る。「知恵に働けば角が立つ。情に流されれば流される」という冒頭の名句で始まる物語は、主人公が自然を詩や絵画として観照し、人間関係をも芸術的な視点で捉えようとする姿を描く。
温泉宿「那古井館」に滞在した主人公は、そこで出会う人々との交流を通じて様々な体験を重ねる。特に印象的なのは、宿の主人の姪である那美という美しい女性との出会いである。彼女は複雑な過去を持ち、離婚の傷を抱えながらも気高い美しさを湛えている。主人公は那美を「非人情」の美として捉えようとするが、次第に人間的な感情に心を動かされていく。
物語は主人公が温泉場での数日間を過ごし、最終的に東京へと帰っていく旅路を描いている。芸術と人生、理想と現実の狭間で揺れ動く青年の心境を、漱石独特の美しい文体で綴った文学的香り高い作品である。自然描写の美しさと哲学的思索が織りなす、日本近代文学の傑作の一つ。