怪我の治療のため温泉に向かう嘉十は、道中で休憩した際に食べ残しの栃団子を鹿にと置いて立ち去る。しかし手拭いを忘れたことに気づいて戻ると、六匹の鹿たちが現れていた。鹿たちは団子よりも白い手拭いに興味を示し、「生き物ではないか」「青白い番兵だ」などと話し合いながら、次々と恐る恐る近づいては逃げ戻る。やがて手拭いの正体を見破った鹿たちは、それを踏みつけながら歌い踊り始める。夕日に向かって美しい歌を交互に歌い、激しく舞い踊る鹿たちの姿に魅せられた嘉十は、思わず「やれやれい」と叫んで飛び出してしまう。驚いた鹿たちは一斉に逃げ去り、静寂が戻る。人間と自然の境界が溶け合う幻想的な物語。