杜子春
芥川龍之介1920年)
239,213
あらすじ — 金も名声もいらない。本当に大切なものって何?
唐の都・洛陽で、親の遺産を使い果たした青年・杜子春。謎の老人から何度も大金を与えられるけど、そのたびに散財して一文無しに。やがて人間に絶望した杜子春は、仙人になりたいと願い出る。待ち受ける地獄の試練で、彼が最後に叫んだ言葉とは――。芥川龍之介が描く、お金と愛の究極の物語。
この作品のひとふみ
或春の日暮です。唐の都洛陽(らくよう)の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
芥川龍之介
御存じでしょうが彼は元来、金持の息子でしたから、今まではただ遊び暮していたのです。ところがその金を使い果すと、今度は手の裏をかえしたように、誰も相手にしてくれません。
芥川龍之介
この夕日の中に佇んでいる、お前の姿が眼に止ったから、何か力になってやりたいと思ったのだ。
芥川龍之介
杜子春は又元の大金持になりました。するとどうでしょう。今まで眉をひそめていた、洛陽の都の人達は、急にいそいそと御世辞を云い始めました。
芥川龍之介
もう人間は愛想がつきました。どうか私を弟子にして下さい。
芥川龍之介
たとい何を見ても、何を聞いても、決して声を出してはならないぞ。もし一言でも口を利いたら、お前は到底仙人にはなれないものだと覚悟をしろ。
芥川龍之介
杜子春は寒さと恐しさとに、殆(ほとんど)気を失いそうになりましたが、しかし鉄冠子の言葉を覚えていましたから、唇を噛みしめたまま、じっと我慢をしていました。
芥川龍之介
閻魔大王はにやにや笑いながら、何か又ほかの鬼どもに命令をしました。するとその鬼どもに引き立てられて、地獄の罪人が二人、息も絶え絶えに彼の前へやって来ました。――その罪人を一目見た時、杜子春は思わず声を立てそうになりました。なぜと云えばその二人の罪人は、外でもない彼の父と母とだったからです。
芥川龍之介
「お母さん。」と一声叫んだと思うと、杜子春の体はもう何時の間にか、元の洛陽の西の門の下に、夕日を浴びて、ぼんやり佇んでいたのです。
芥川龍之介
もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ。
芥川龍之介
お前はもう仙人になりたいとは思わないか。――ではまたどこかの街角で夕日の沈む空を眺めながら、腹を空かしているのか。
芥川龍之介
私はこれからは、人間らしい、正直な暮しをするつもりです。
芥川龍之介
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