芥川龍之介が自殺直前に書いた自伝的作品。主人公の「僕」が「ある声」との対話を通じて、自らの人生を振り返る。「僕」は作家として生きながら、恋愛問題で家族を傷つけた罪悪感に苛まれている。風流と愛、芸術と道徳の間で引き裂かれ、社会からの非難と内なる良心に苦しむ姿が描かれる。対話相手の「声」は天使であり悪魔でもあり、時に慰め時に責める存在として現れる。主人公は自分を「阿呆」と呼びながらも、最後まで書き続けることへの意志を失わない。全編を通じて、近代知識人の孤独と絶望、そして創作への執念が痛切に表現されている。芥川の死への予感と人生への諦観が色濃く反映された、遺書的な意味を持つ傑作である。